抵当権消滅請求を利用する

オーバーローン(担保割れ)等の場合における関係者による住宅の取得

(1)抵当権消滅請求(民法379条)を使用して、親族などの関係者に譲渡したうえで、抵当権を消滅させる。
(2)自己破産して破産管財人から親族などの関係者が買い受ける。
(3)競売手続の中で親族などの関係者に競落してもらう。



抵当権抹消請求とは


抵当権消滅請求の概要

民法378条以下に、抵当権消滅請求手続が規定されています。
これは、強制的に抵当権を抹消させることにより不動産の有効利用を図るための制度です。
もちろん、抵当権者の同意を得て行う、任意売却の手続が好ましいのですが、売却価格その他の事情で任意売却が困難な場合には、有力な手段となります。

抵当権消滅請求とは、抵当権の目的となっている不動産を買い受けた者(抵当不動産の第三取得者)が、抵当権の実行としての差押えの効力が発生する前に抵当権の消滅を請求することをいいます(民法379条)。
具体的には、第三取得者が、抵当権登記をしたすべての債権者に当該不動産の代価を記載した書面を送付し(同法383条)、そのすべての債権者がそれを承諾すれば、第三取得者がその代価を支払または供託したときに抵当権が消滅します(同法386条)。
しかし、債権者が承諾しないときは、抵当権消滅請求の書面の送付を受けたときから2か月以内に抵当権を実行して競売の申立をする必要があります。もしこの期間内に実行しないときは、抵当権者は抵当権消滅請求を受諾したものとみなされます(同法384条1号)。


抵当権消滅請求手続きの流れ

1)抵当物件の買い主を探す(もちろん、抵当権消滅請求手続を理解してもらう必要がある)。

2)買い主への所有権移転登記を行う(民法378条)。

3)全抵当権者に、抵当権消滅請求通知の内容証明を発送する(民法383条)。

4)2ヶ月以内に競売の申立がなければ抵当権の効力が消滅する(民法384条)。

5)抵当不動産の評価額を抵当権者に支払うか、受け取りを拒絶した場合は法務局に供託する。

6)登記の抹消のために、抵当権者と話し合うか、抵当権抹消登記請求訴訟を提起する。

7)買い主は、抵当権登記の抹消された所有権を取得できる。

※平成16年3月までは滌除制度で、4)の競売申立が増加競売の申立とされていました。増加競売の申立には、通常の競売申立予納金の他に抵当不動産の評価額の1割増(110%)の保証金の積立が必要(民事執行法186条=現在は削除)とされ、抵当権者としては増加競売でお金を受け取るために、逆にお金を用意しなければならないという、極めて厳しい条件になっていましたが、法改正により通常の競売申立となりました。

抵当権消滅請求手続きの特徴


①抵当不動産の評価額を用意できれば、確実に抵当権を抹消できる。
②抵当不動産の評価額の提供が抵当権登記抹消の前に必要なので、銀行の融資が事実上困難です。
③根抵当権は、民法398条の22(根抵当権の消滅請求)で消すこともできます。
④抵当権消滅請求手続を活用すれば、担保割れした物件でも処分することができます。

1.抵当権消滅請求

抵当不動産の所有権を取得した第三取得者は、登記をしたすべての抵当権者に対し、民法383条の規定による書面を送付することにより、抵当権消滅請求をすることができます(民法378条・383条)。この抵当権消滅請求は、抵当権の実行としての競売による差押えの効力が発生するまでの間、いつでも行うことができます(民法382条)。

2.抵当権者の対抗措置

抵当権消滅請求がなされた場合、これを受けた抵当権者としては、第三取得者の申出額で抵当権を消滅させることの諾否を検討することになります。この検討期間は、抵当権消滅請求を受けたときから2ヶ月間です(民法384条1号・385条)。そして、この2ヶ月の間にすべての抵当権者がこの申出額を承諾して、第三取得者から申出額相当額を受領するなどすれば、抵当権は消滅します(民法386条)。
これに対し、抵当権者が、第三取得者の申出額を承諾しないときは、抵当権者は、抵当権消滅請求に対する対抗措置として、抵当不動産につき競売申立をすることができます(民法384条1号・385条)。この競売申立は、抵当権消滅請求を受けたときから2ヶ月以内であれば足ります(同条)。なお、この場合の競売申立は、抵当権消滅請求を受けた場合の対抗措置として行われるものですので、被担保債権の債務不履行は要件となりません。そこで、この競売申立の際には、抵当権消滅請求を受けて法定の2ヶ月の期間内に申立をするものであることを明示することになります。この点は通常の競売申立と異なる点で、留意が必要でしょう。

3.抵当権者が承諾も競売申立もしなかった場合

抵当権者が、抵当権消滅請求を受けて2ヶ月の間に、第三取得者の申出額に対し承諾をせず、かつ、対抗措置としての競売申立もしなかった場合は、抵当権者が第三取得者の申出額を承諾したものとみなされます(民法384条1号)。