住宅資金特別条項(住宅ローン特則)

住宅資金特別条項(住宅ローン特則)とは?


個人版民事再生(「個人再生」といいます。)を行うことの大きなメリットとして、住宅を守ることができる、ということがあります。
これは、今現在ローンを返済している最中の住宅について対象となります。
住宅ローンが残っている住宅を残して、個人再生を行うためには、住宅資金特別条項という制度を利用する必要があります。

持ち家を残すためには

住宅資金特別条項を利用することで、借金の元本等を圧縮しつつ、住宅ローン支払い中の住宅を守ることができます。ただ、住宅資金特別条項を利用しても、住宅ローンとして借りているお金は圧縮されることはなく、最初に契約したとおりの金額を支払わなくてはいけません。
また、住宅資金特別条項はどんな場合でも利用できる、という制度ではなく、要件を満たしている場合のみ利用することができます。
個人再生だったらどんな場合でも住宅を残せる、というわけではありませんのでご注意下さい。

住宅資金特別条項を利用するための要件

個人再生をして住宅を残すための要件を見てみましょう。

①個人が所有している家である

住宅資金特別条項を利用できるのは個人が所有している家に限られ、会社などの法人が家を所有している場合は利用することができません。

②家の床面積の2分の1以上を「住む」ために利用している

たとえば、家の一角を店舗や事務所として利用している場合、その利用割合が2分の1を超えていると、住宅資金特別条項を用いることができません。

③主に生活を営んでいる家である

単に家賃収入を得るためだけの家やマンション、また別荘などは、住宅資金特別条項を利用することができません。なお、家を複数持っている場合は、主に生活をしている家ひとつのみを残すことができます。

④住宅ローン、または改良(リフォームなど)のためのローンである

住宅ローンあるいは、住宅のリフォームに必要な資金の借り入れでないと、住宅資金特別条項は利用できません。

⑤上記のローンが分割支払いによるものである

住宅ローンあるいは、住宅のローンが分割支払いの契約でないと、住宅資金特別条項を利用することはできません。

⑥上記4のローンについて、住宅に抵当権が設定されている

住宅ローンは非常に高額な融資ですので、金融機関は融資を行う際に、その家に対して抵当権を設定することが一般的です。

⑦上記4のローン以外の借金による抵当権が設定されていない

住宅ローン以外の借金(例えば、消費者金融の不動産担保ローンや銀行等のおまとめローンなど)についても抵当権が設定されている場合は、住宅資金特別条項を利用することができません。
※住宅ローン以外の借金について抵当権が設定されているかどうかは、不動産登記簿謄本を確認すればすぐにわかります

⑧保証会社による代位弁済が行われてから6ヶ月が経過していない

住宅ローンは、銀行などの金融機関から融資を受けることが多いかと思いますが、銀行などの金融機関はもしものときに備えて、保証会社をつけるケースが一般的です。住宅ローンへの支払いが滞ると、保証会社がローンを組んでいる方の代わりに、銀行などの金融機関に対して住宅ローンの残高を返済することがあります。
これを代位弁済といいます。この代位弁済が行われてから6ヶ月が経過してしまうと、住宅資金特別条項を利用することができなくなります。もし、すでに保証会社による代位弁済が行われている場合は、早急に個人再生の申立てをするべきです。


住宅資金特別条項の注意点

個人再生をしたとしても、住宅ローンとして借りたお金については、元本や利息がカットされることはなく、最初の契約どおり支払わないといけません。
ただ、現在の住宅ローンの支払い状況や、個人再生との兼ね合いで今までどおり住宅ローンを支払っていくことができるかどうか、ということによって、住宅資金特別条項のパターンを使い分けることができます。

諸費用ローンについて

諸費用ローンは、土地建物本体の住宅ローンとは別に抵当権を設定していることがあります。
そのため住宅ローン特則を定めることができないこともあります。住宅ローン特則を定めることができないと、住宅を保有し続けられなくなります。
ここでポイントとなるのは、諸費用ローンの使途は何かです。
仲介業者(不動産業者)に対する仲介手数料、司法書士の報酬、金融機関の保証会社に対する保証料、一時払いの火災保険料、測量費(土地家屋調査士払い)、種々の税金等の土地・建物の取得に直接必要な経費であれば、大丈夫だと思われます。

これに対し、家具、電化製品、インテリア用品等の購入資金であれば認められないと思われます。


住宅資金特別条項のパターン

パターンとしては以下の5つがあり、最も適したものを選ぶことになりますが、住宅資金特別条項を利用する場合は住宅ローンの債権者(銀行など)の同意が必要となりますので、ご自身が希望されたパターンが債権者の同意を得られず利用できない、ということもあります。


1.そのまま型

住宅ローンについて、従来通りの返済を続けていきながら(返済計画の申立中も裁判所の許可を得て返済を続けます)、住宅ローン以外の債務を整理する手続です。実務的には、この「そのまま型」の利用が一般的です。

2.期限の利益回復型

はじめの契約どおり住宅ローンを返済しながら、別途、返済が滞った分について、期間を定めて分割で返済していくというもの。

3.期限延長型(リスケジュール型)

住宅ローンの返済期限を延ばす(例えば、残り25年のローンを30年にする)ことによって、月々の返済金額を少なくするというもの。

4.元本猶予期間併用型

上記の期限延長型(リスケジュール型)を利用しても、住宅ローンの返済が難しい場合に利用できるもので、住宅ローンの返済期限を延ばすと同時に、個人再生の手続き中は住宅ローンの返済額を少なくしてもらえるというもの。

5.同意型

上記4つのどれを利用しても住宅ローンも返済が難しい場合に利用できるもので、住宅ローンの債権者の同意を得たうえで、さらに住宅ローンの返済方法に変更を加えることができるというもの。

どの住宅資金特別条項を利用するべきか、という選択をするにあたっては、弁護士や司法書士といった専門家のアドバイスを受けられることをお勧めいたします。


住宅ローンを借り換えた場合の個人再生の利用の可否


住宅ローンの特則の住宅資金貸付債権は、上述した要件をみたしているものである必要があります。借り換えの場合、従前のローンに代わって、住宅ローンの返済に充てられるわけですから、住宅資金貸付債権と言えます。



住宅ローン以外に債務(負債・借金)がない場合の個人再生の可否

①住宅ローンを滞納してしまったが、競売は避けたいので個人再生の申立てをし,住宅資金特別条項を利用し、リスケしたい。
または、
②住宅ローンをペアローンで組んでいる関係で,住宅ローン以外に他の債務はないが,夫(又は妻)と同時に個人再生の申立てをし,住宅資金特別条項を利用したい。
などの場合に問題になるとこです。

通常,個人再生は,住宅ローン以外にも債務があり,住宅ローンのある自宅を手放すことなく,他の債務を最大5分の1まで圧縮する債務整理の手続です。

しかし,給与所得者等再生,小規模個人再生ともに,住宅ローン以外の債務が存在することは,手続開始の要件にはなっていません。
また,上記のように,住宅資金特別条項を利用することのみを目的として個人再生の申立てを利用する必要性は存在します。

 したがって,住宅ローン以外に他に債務がなくても,破産手続開始原因となる事実が生じるおそれがある等の個人再生開始要件が認められれば,住宅資金特別条項を利用することのみを目的として個人再生を利用することができると解されています。
なお,住宅資金特別条項を利用することのみを目的として個人再生手続を利用する場合には,再生計画案をどのように記載するのかについて問題となります。



滞納処分(差押・公売等)と住宅資金特別条項利用の可否

一般の優先権のある租税債権(税金)は,再生手続上の制約を受けずに,随時,権利を行使することができます。住宅についてなされた税金等の滞納処分手続(公売等)は,再生手続開始決定後も手続きは中止されません。また,再生手続が認可されても滞納処分手続は,失効しません。
したがって,再生手続開始決定後も滞納処分手続は,原則として換価手続(公売)へ進ん行きます。

再生債務者が住宅の所有権等を失うと見込まれる場合には,住宅資金特別条項を定めた再生計画は認可されません。個人再生の場合には,決議や意見聴取に付されません。
滞納処分がなされている場合は,すでに述べたように再生手続の開始決定によらずに滞納処分手続は進行し,公売によって所有権の喪失という事態が見込まれるので,滞納処分手続が開始されていることは,住宅を失う場合の典型例と考えられています。
したがって,滞納処分がなされている税金について何らの手当がなされていないまま,住宅資金特別条項を付した再生計画案を提出しても,認可されません。

滞納処分手続が開始されていても,滞納している税金を弁済し,公売によって所有権の喪失という事態が生じないと見込まれる場合は,住宅の所有権等を失うとは見込まれません。
そのため,再生計画案の提出までに税金等を完納している場合や,税金の支払方法について分納の協議が成立し,協議に従って支払をする限り換価は猶予するといった事情があれば、住宅資金特別条項を利用することは可能であると考えられます。

ペアローン住宅資金特別条項利用の可否

 
 住宅ローンの中には,親子ペアローンや夫婦ペアローンとして,2個の金銭消費貸借契約を締結し親子又は夫婦が住宅購入の資金を共同で調達し共有不動産全体にそれぞれを債務者とする抵当権を設定するという方式を取ることがあります。
 ペアローンを利用している場合には,住宅資金特別条項が使えないのではないかという見解があります。他人の債務を担保するために自己の所有住宅(共有持分)に抵当権を設定していることになるので,住宅資金特別条項の要件を満たさないのではないかというのが,その理由です。
 
 一方,一定の場合に住宅資金特別条項の利用を認めてもいいという見解も存在します。
その見解では,同一家計を営んでいる親子又は夫婦のペアローンの場合であって,
①同一家計を営んでいる者がいずれも個人再生手続の申立てをし,
②双方が住宅資金特別条項を定める旨の申述をすること
の要件を満たしていることが必要となります。
 
 なお東京地方裁判所は、ペアローン債務者双方が申立てをする場合には住宅資金特別条項の利用を認めているようです。



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